森川弁護士、受給の現場に切り込む
[第4回]

第4回 吹き荒れる生活保護バッシングについて

森川清氏

[首都圏生活保護支援法律家ネットワーク事務局長 弁護士]

森川清氏

生活保護制度を取り巻く問題点を専門家の立場から徹底解説。

 

それは2012年からはじまった

 
 2012年1月20日、札幌市白石区で40代姉妹がマンション居室で孤独死しているのが発見された。厳冬のなか、ガス・電気が止められ、知的障害者の妹の胃には内容物がわずかしかなかった。

 姉は、2010年~2011年にかけて、3回も福祉事務所を訪れ、窮状を訴えていた。しかし、福祉事務所はいわゆる「水際作戦」でこれに対応し、姉は生活保護の申請すら受け付けてもらえなかった。過去に生じた同様の事案の判例に照らせば、福祉事務所の対応は明らかに違法な申請拒否といえる。

 事件は悲惨そのものであり、福祉事務所の非道は当然、広く報道されてしかるべきであった。たとえば、福祉事務所の違法な対応により北九州市小倉北区で50代の男性が「おにぎり食べたい」と日記に書き残して餓死した事件が2007年7月に起こったが、その事件については相当数の報道がなされ、事件は広く人口に膾炙するところとなった。ところが、2012年の40代姉妹孤独死事件については、北九州市の事件に比して、あきらかに少数の報道しかなされなかった。両事件の性質は非常に似通っており、ニュースバリューに差異など認められないにも関わらず、である。私は、ジャーナリズムを中心とした冷ややかな空気に強い懸念を覚えた。

 そして、2012年5月、母親に生活保護を受けさせていたことでお笑い芸人が謝罪会見を開いた。これを機に、厚労省は自民党の生活保護基準引き下げの提案を受ける形で、支給水準の見直しなど一連の生活保護「改革」に動き出した。同時に世間で吹き上がったのが、いわゆる生活保護バッシングである。そう、震災翌年の2012年を起点に、いまに続く唾棄すべき潮流が生じたのである。そして、その背後には、「権力」による情報操作の手が見え隠れしている。これは決して、穿った見方ではない。

情報操作に乗ってしまった人々

 たとえば、各種報道機関は近年、毎月のように生活保護受給世帯が過去最高を更新したという統計数字を発表している。近年の生活保護受給世帯の増加は、景気の悪化や高齢化の進展といった社会問題を背景としているわけだが、そうした分析もなしに、ただ「過去最高を更新」という事実だけを垂れ流しているのである。

 いったい、生活保護受給世帯が漸増していることにどれだけの社会的インパクトがあるというのか──さしてないはずである。国の統計という意味では、生活保護受給世帯数の推移などよりもはるかに社会的影響力の強いものはいくらでもある。しかるに、各種報道機関は執拗に生活保護にこだわる。いったい誰のさしがねか? と思いたくもなる。

 そして、やはり2012年頃からニュース番組などでさかんに生活保護の不正受給がドキュメンタリー枠で取り上げられるようになったという事実。私の目には、これらは一連のキャンペーンのように映る。国の中の一部の人たちは政策としてなんとしても生活保護を始めとする社会保障・社会福祉政策を縮小したい。そのための手始めとしてメディアを通じて反生活保護のキャンペーン化を進めているように見えて仕方ないのだ。

 しかし、不正受給とされたものの中には「不正」でないものが含まれている。私が関与した争訟の3件で、不正はなかったとして不正受給だと認定した決定が取り消された。不正の認定自体が緩くなりカサ増しされている可能性がある。
 そういった中、世論はキャンペーンに乗ってしまった。結果、生じたのが嵐のような生活保護バッシングである。「情報操作」は見事に奏功したといえよう。だが、果たしてそれでいいのだろうか。いま生活保護バッシングに走っている人々、もう少し冷静になって考えられないものだろうか。

 私には、是非とも気づいてほしいことがある。バッシングに走る人々は、実は自らの首を絞めているのだ。次回は、そのことを書こうと思う。

 
>>第1回 生存権とは何か
>>第2回 ミーンズテストという通過儀礼
>>第3回 いまに生きる「劣等処遇原則」
>>第4回 吹き荒れる生活保護バッシングについて
>>第5回 ナショナルミニマムとしての生活保護基準
>>第6回 福祉事務所による違法行為はなぜ生じるのか
 


 

森川清(もりかわ・きよし):葛飾区福祉事務所でケースワーカーとして勤務の後、弁護士へ。日弁連貧困問題対策本部運営委員、東京災害支援ネット代表等も務める。著書に「改正生活保護法 新版・権利としての生活保護法」(あけび書房刊)などがある。

首都圏生活保護支援法律家ネットワーク


 


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