私が障害とうまく向き合えるようになるために大切だったこと(全3回)

第2回 障害と向き合い、自分の人生を生き始める

黒木 啓(仮名)

[会社員]

双極性障害

黒木啓(くろぎひらく:30歳)さんは10代の頃に双極性障害を発症。以来、この病との壮絶な戦いを繰り広げてきた。その中で学んだことや感じたことなど――貴重な体験の記録を短期集中連載でお届けします。

 

転院、そして好転へ

 

 私が障害とうまく向き合えるようになったのは、20代も半ばの頃でした。すでに多くの挫折を経験し、もともとなかった自信は完全に打ちのめされていました。転機となったのは、今も心から恩を感じている主治医との出会いです。それまで私は地元の私立病院の精神科に通っていましたが、医師とうまく信頼関係を築くことができずにいました。そこで思い切って紹介状を書いてもらい、市内の県立病院に転院したのですが、これが功を奏しました。

 精神障害を抱える人たちにとって、主治医と信頼関係を築けるかどうかは症状が安定するかどうかに関わる大きな問題です。それには患者側の努力も必要ですが、医師との付き合いが長期間に渡っても信頼関係がうまく築けない場合、思い切って転院することも考慮に値する選択肢だと思います。また、通院先のシステムも重要です。自分の(障害上の)特性を考えて、待ち時間が長いことが病院への足が遠のく大きな原因になっていないか等、通院を継続して行うための障害を自分で把握し、それを解決できる通院先を探すのもひとつです。私が転院した県立病院は、完全予約制で待ち時間がほとんどなく、どんなに長い時でも30分ほど待てば診察してもらえていました。これは状態が悪く待つことが苦痛なときも、後に就職し時間休を取って通院する際にも大変ありがたかったです。

 それまで通っていた私立病院の医師は、話をよく聞いてくれる医師だったのですが、医師が提示してくれる対処法に私が満足できず、何より治療に積極的になれませんでした。しかし、転院先の県立病院の主治医は、話をよく聞いてくれることは前提として、私に科学的に自分を観察することを教えてくれました。その一助として、認知行動療法を紹介してくれ、私は認知行動療法のワークブック(注1)を買い、日常的にそれを行うようにしました。これは書き込み型のワークブックで、まず感情をとらえることから始めて自己肯定感を育て、自分の考えの癖を知った上で別の考えを見つけ、ネガティブな考えから考えをそらす訓練をします。最後に、自分の行動の癖を知り、快い気分になる行動を取るようにしたり、自分のネガティブな行動パターンを変える訓練をしたりして少しずつ自分の認知の歪みを取っていく作業が行えます。それまで感情に絡め取られてしまい苦しくなることの多かった私はこの作業を通して少しずつ自分の感情の呪縛から解放されていきました。

 また、主治医が教えてくれた大切なことは、私が障害者になった(病気になった)原因を人の中に探すことは何の利益ももたらさないということです。それまで私は、親を責めたり自分を責めたり、時には元恋人や友人を責めたりして、人間関係の中に原因を見出そうと躍起になっていました。そのことでしか救われないと頑なに信じていました。しかし主治医は、原因を過去に遡って探すよりも、現在の状況を知りそれに対処していく方法を考える方がずっと健全で効率的だと教えてくれました。私はそれを聞いて、心からほっとしたのを覚えています。自分を含め、もう誰のことも責めなくていい、ただ現実をありのまま受け止めて、これからのことを考えていけばいいと、気持ちがずいぶん明るく前向きになりました。

 考えが変わってからというもの、私は治療に積極的になり、服薬を拒否することもやめ、決まった時間に服薬するようになりました。これがとても重要だったと思います。振り返ると、調子の悪いときは決まって薬を飲んでいないときです。双極性障害にとって、どんなに服薬が必要なのか、実体験を通して学びました。

 

自分らしく生きることを教えてくれた大人たちとの出会い

 

 適切な医療を受けることができ、治療に積極的になった私に必要だったのは、長い間の闘病生活で失ってしまった自信を少しずつ取り戻すことでした。大学を卒業後しばらくして地元に帰ってきた当時、私はまだ症状が安定しきっておらず、働くことに対する自信もなく、定職に就かずにいました。そのときに出会った2人の大人たちにとても大事なことを教わり、今も感謝し敬意を抱き続けています。今回はそのうちのひとりについて書きたいと思います。

 その方は地元で陶芸をして暮らしている女性です。彼女は生きる道を模索していた私を優しく受け入れ、見守ってくれました。時には私にも土をいじることをさせてくださったり、彼女のお仕事を手伝わせてくれました。そのとき彼女に言われた言葉で今でも大切にしている言葉があります。「啓さんの書きたいものを書いたらいいと思う。今、立ち止まって考えている啓さんの考えを聞きたいと思う人はきっといるわ。」ずっと書くことが好きだった私は、彼女の言葉を受けて、まとまったものさえ書けなかったものの、ブログなどに短文をつづるようになり、今でもそれを続けています。彼女と会うと彼女がかけてくれる「今はどんな本を読んでいるの」という言葉は何よりも私を安心させてくれます。私に障害があるかないかなど気にもせず、損得勘定なしに私という人間を受け入れ、心配してくれたり大事にしてくれる人がいるのだという事実が、私を強くさせてくれます。ありのままの自分でいい、と彼女は思わせてくれました。

 もうひとりの方に関しては、存在が大きすぎてまだ私の中で消化しきれていません。しかし私が障害(自分)と向き合うにあたって決定的かつ大きな影響を与えてくださった方なので、いつか文章にできたらと思っています。

 

(注1)清水栄司「自分でできる認知行動療法」星和書店2010年


黒木啓
黒木 啓(くろぎひらく:仮名)、30歳。
地方在住会社員。10代の頃にうつ病を発症。
20代の頃に双極性障害Ⅱ型と診断される。
1児の母。自身の体験を書くことで
悩みを抱える人たちとつながりたいと考えている。

 


 


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