Road to the Paralympics Tokyo
[第11回]

花岡伸和氏

[一般社団法人日本パラ陸上競技連盟 副理事長]

 

第11回 競技のためだけに人生を費やしてはならない

社会経験をいかにして積んでいくか

今、日本のパラスポーツ界にはかつてないほどの追い風が吹いている。いうまでもなく、2020年に向けて選手を育てていこうという追い風だ。選手を育てるという機運が高まっていること事態は間違いなく良いことだ。しかし、私はその“やり方”に大きな危惧を覚えている。

たとえば、企業の障害者アスリートチームに属している選手というのは、今は望みさえすれば一日中、練習に明け暮れることのできる環境が整ってきている。事実上、仕事をすることは免責されているのだ。一見、これは非常に良い環境に見える。しかし、大きな落とし穴もある。競技のことしか知らないアスリートが大量生産されてしまうという落とし穴である。

これまでの連載でも何回か強調してきたことだが、アスリートを育てていくためには競技力と人間力をバランスよく成長させていくことが重要だ。そして、人間力を養う上では、やはり仕事を通して社会経験を積むことが最良の方法である。人間は決して一人で生きているわけではなく、多くの人と助け合いながら一つの大きな事を成し遂げていく生き物だ。競技のことしか知らない選手というのは、そういう人生において肝心な事を得心することができない。結果、人間として歪(いびつ)な育ち方をしてしまう。これは、とくにそのアスリートが現役生活を終えた後の人生を考えると、非常に危険な事態だと私は思う。

だいたいが、今の日本のオリンピック/パラリンピック関係者というのはメダルの事を言い過ぎである。メダル獲得を至上命題として有望な選手に過剰な期待をかける。すると、その選手がメダルを逃した場合どうなるか。選手の側に大変な心の傷が残ってしまうのである。

突貫工事で2020年に向けた準備を進めるのはいいが、その結果、さまざまなところにひずみが生じてしまう危険性があるということを、関係者はよく認識すべきである。そのひずみというのも、競技場問題などのハードウェアに関するものならまだいい。選手の心というソフトウェアに生じてしまったひずみは取り返しがつかない。この辺りのことがなかなか理解されないことに、私などはどうしてもある種の苛立ちを覚えてしまうのだ。

タイムマネジメントの大切さ

私が選手として、また指導者として長年、関わってきた車椅子陸上競技では、やはり海外選手が圧倒的に強い。では、彼らはなぜ、強いのか──カンタンにいえばメダルになどあまりこだわっていないからである。そしてもう一つ、極めて重要なのが、彼らが人生におけるタイムマネジメントの大切さを熟知しているからである。

彼らはまず、長いスパンで自分の競技人生全体を見渡したタイムマネジメントを考える。そして、自分がどの時点で何をすべきかを決めていく。そうすると、時間をなんのためにどのぐらい使うかが見えてくる。それができるからこそ、自分のパフォーマンスのピークを上手くパラリンピックに合わせることができるわけだ。

また、彼らは1日24時間のタイムマネジメントもしっかり考えている。だからオン/オフの切り替えが実に上手い。では、日本選手の場合はどうか。一日中ストイックに練習に明け暮れることが美徳であるように考えられているのが現状だ。日本人は、その手のストイシズムが大好きだが、それは強い選手を育てる上では決して良策ではない。また、練習漬けの日々のツケが、故障というカタチになって回ってくる例も多い。私自身、今も残る故障、生涯にわたる故障を負ってしまったのは、プロフェッショナル・アスリートとして練習漬けの日々を過ごしていた時期である(コラム第4回参照)。

考えてみてほしい。アスリートとして本当に良い時期というのは人生の中でほんの一瞬だ。その一瞬のためだけにすべてを費やすというのは、言葉は悪くなるがどう考えてもアホくさい。スポーツでは、そのぐらいゆったりと構えていた方が、かえって結果が出るものなのだ。

アスリートである以前に一人の人間であること。そのことを選手には忘れてほしくないものだ。まずは自分らしく、人間らしく生きる──その姿勢がベースにないと、人生というのは花開かないものだと私は思っている。

 

花岡

 

花岡伸和

アテネパラリンピック(2004年)の車いすマラソンで6位、ロンドン(12年)で5位に入賞した車いす陸上の国内トップアスリートが花岡伸和氏。マラソンを引退後は後進の指導に力を入れる一方、手でペダルをこぐ自転車「ハンドサイクル」に転向し、同競技での東京パラリンピック(20年)出場を目指している。

 



 


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