リカバリーの旅日記 ~On The Road~

第3回 帰り道

増川ねてる氏

[アドバンスレベルWRAPファシリテーター/
NPO法人東京ソテリア・ピアサポーター(東京都江戸川区)]

越後湯沢


旅。
何が起こるかわからない…道の上。
出会いや、発見、怪我、病気。そして続いていく、私の人生。
15歳で突然始まった、強い「眠け」と「明晰夢」。19歳で知った「ナルコレプシー」。「現代医学ではもう限界です」言われた著者が、
精神科医療の周辺を30年以上巡り続けて44歳になった現在、
見聞したこと。語りたいこと。
メンタルヘルスのリカバリーと、旅日記。


さて、今日は4月15日。
新年度始まって、最初の

「WRAP集中クラス」

のファシリテーションをしてきたところ。

場所は、横浜。
横浜の仲間たちとの「集中クラス」をしてきたところ。
土曜日、日曜日と、二日間のワークショップを終えての帰り道。

時刻は、23:02

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出かけて行くと、必ずやってくるのが、この帰り道。

あー、いい時間だったな。
という気持ちを一山一回越えて、やってきたのは、
「家に着いたら休めるなー」
という安堵感。
そして、僕は、いったい何回帰っていくんだろうという気持ち。

一体、いつから、帰っていくという想いになっているんだろうな…という回想。

・・・

僕は、
「新潟から東京へ」

出てきた人でした。
1993年の4月。
一年浪人の後、大学受験に何とか通って上京しました。
「東京に行けば、夢が叶う」
「田舎にいたんじゃ、僕は自分の夢を叶えることが出来ない。夢を叶えるためには、東京でなければならないんだ」
って思って、東京へ。
「大学」は、東京へ行くための「理由づけ」のためだったと思います。何もてがかりなしで、行くには東京は大きすぎましたし、僕には実力もコネもなかったのです。

・・・

「旅の人」
そんな言い方を、僕の故郷ではしていた記憶があります。
関東の方面の人たちのことを。「旅の方の人が来た」とか、「たびんっしょが来た」とか、そんな表現をしていたような気がしています。
そして、
僕は、大学で東京に行き、(田舎をでて)
僕も(僕は)、「旅の人」になったのでした。

いつか、(今はもう亡くなった)祖父が言っていたそうです。
「信浩も、「旅の人」になっていまった」と。

(それは、僕が、上京して数年経った、あとのこと)

・・・

そして、僕の中にあったのは

「さて、いつ、僕は、新潟に帰るんだろうか?」

ということでした。
新幹線にですね、乗って、新潟に帰るんです。
上野、大宮、高崎、上毛高原、越後湯沢、浦佐、長岡、、・・・高崎を越えて、越後湯沢に入った辺りから、
僕は「帰って来た感じ」になるんです。なっていました。
それは、もう、人格のモードが、形が変わっていく感じ。
反対に、浦佐、越後湯沢、上毛高原、高崎、大宮、、、と東京に向かって行くと・・・
だんだんだんだん、「東京モード(の人格)」に僕は、なってゆくのでした。それは、もう、それはもう、

不思議な感覚。

・・・

東京から、新潟へ行く時よりも、
新潟から、東京への方が、より劇的な変化。

上毛高原辺りまでは、新潟モード。
それが、高崎に着き、大宮に入り、
高いビルが見え始めると…僕は、「東京の人・・・旅の人」になっていく・・・

そして、それを、僕は少し“淋しいな”って思ってました。

生来の僕ではなくなっていく感じ。

・・・僕が「作った」僕になっていく感じ。

親の知っている僕ではなく、
故郷の友だちの知っている僕ではなく、
・・・僕が作った、僕、になっていく・・・ 《問答無用》

新幹線の出しているスピードで。
新幹線がたたき出す、移動距離のその分の重みで変わってゆく、・・・問答無用。

淋しいから、もう止めて、
なんて、幼い僕が声を上げても、僕は、

旅の人へとなっていくのでした。

・・・

そして、生まれた町での暮らしより、他のところでの暮らした時間が長くなって、
僕が家を出た時の、父の歳と同じ歳になって、
今日、僕は・・・

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旅にでて、そして、帰ってゆく。

さて、みなさんは、

今日は、どこに帰りましたか?

やがてどこに帰ります?

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増川ねてる氏
増川ねてる
1974年、新潟県小千谷市生まれ。アドバンスレベルWRAPRファシリテーター。

2007年より、WRAPファシリテーターとしての活動を始める。紆余曲折ありながらも、現在は、精神科の病院(都立松沢病院、埼玉県立精神医療センター等)や福祉施設を中心に、WRAPワークショップや研修等を、全国各地で行っている。2011年には、約7年受給していた生活保護を抜け、自立。「誰でも、何処からでもリカバリーできる世の中を! 」と講演活動なども行っている。2014年には、一般社団法人チーム医療フォーラム主催の「MEDプレゼン2014プレゼン」https://youtu.be/nmHWTvsxQN4に参加。他科との連携を模索中。またWRAPのみならず、「U理論」の実践と普及啓発にも力を入れている。

……
NPO法人東京ソテリア・ピアサポーター、

認定NPO法人 特定非営利活動法人 地域精神保健福祉機構・コンボ 理事
https://www.comhbo.net/
NPO法人精神科作業療法協会・POTA 理事
http://www.pota.jp/

明治大学 社会イノベーション・デザイン研究所 客員研究員
……

幸せを感じるのは、文章を書いているとき、ファシリテーションをしているとき、好きな人といる時で、
著書に「WRAPRを始める!」(精神看護出版・共編著者)、
「シリーズ:こころの科学増刊メンタル系サバイバルシリーズ 私はこうしてサバイバルした」日本評論社2017(一部執筆)
「Q&Aでわかる こころの病の疑問100当事者・家族・支援者に役立つ知識」中央法規2014(一部執筆)等がある。