うつ病でLGBTな僕の生活と意見[第6回]

強迫性障害を患っていた頃②

ますみゆたか氏

[にじのこころ代表]

ドアと鍵

精神疾患を患い、かつLGBT(ゲイ)である──この社会では二重の意味でマイノリティでありながら、同胞たちのために自助グループ「にじのこころ」を事実上、一人で運営するという孤軍奮闘ぶりをみせる、ますみゆたか氏。LGBTコミュニティでさえ「メンヘラお断り」という理由でなかなか受け入れられないという彼が、日々の雑感を連載で綴ります。

 

「儀式行為」や「数字へのこだわり」も

自分でも何となく奇妙な事をしていると薄々感じながらも、仕事が忙しく心も体も疲れていたので、玄関の鍵の確認にどうしてこんなに時間を使うのか落ち着いて考える余裕もありませんでした。

厚生労働省「みんなのメンタルヘルス 強迫性障害」

厚生労働省の強迫性障害の所には、よく知られている不潔恐怖や確認行為などの症状以外も書いてあり、私はその中で「儀式行為」や「数字へのこだわり」というものが確認行為と同時に発生していて、玄関の鍵を確認する行為に独自のルールが生まれていきました。

例えば「左にドアノブを回しドアを引いて鍵がかかっているかを確認。それを5回繰り返す。右にドアノブを回して先程と同じように確認する」と、決まった段取りを行って鍵がかかっている事を確認しないと気が済まない状態に陥っていました。鍵の確認は勿論ですが、自分の中でいつの間にか作られたルールを順番通り、しかも一度も間違いなく最後までやらないといけないのです。

ドアを引っ張り「ガチャガチャ」という鍵がかかっている音や手ごたえを感じないと納得できず、さらにドアノブ付近を凝視しながらそこを指差して「鍵をかけた!鍵をかけた!私は鍵をかけた!」と声を出して、確かに今自分が鍵をかけたという事が記憶にしっかりと残るような行動までするようになりました。

しかし鍵を何度も確認するだけでもかなり集中力が必要な状態なのに、さらに確認の順番や回数のカウントなども行うので、この儀式を始めてからは本当に神経がすり減る一方でした。儀式の手順が増えれば増えるほどそこに気を取られてしまい、儀式が終わった瞬間に本当に鍵を最初にかけたのか気になってしまい、それがとても不安でまた最初からやり直すという事も増えてきました。鍵をかけた事を思い出そうとするのですが、何回も確認をすればするほど記憶が曖昧になっていき、自分がつい数分前にした事なのに自信が持てなくなりました。

 

玄関の鍵を確認するだけで数十分

また玄関の鍵を確認する儀式をしている最中に同じ階に住んでいる人が共用廊下に出てきたりすると、途中まで確認をしたものが無効となり、もう一度最初からやり直さなければならないというルールもいつの間にか発生しました。

ドアの前に数分も立っている所を見られたくないので、誰かが出てきそうになるとドアを急いで開けてすぐに家の中に入っていました。その人がいなくなるのをじっと待ち、誰もいなくなったのを見計らってまた玄関の鍵を閉めて確認を最初から始めます。

ところが邪魔が入らないかと気になってしまうと、鍵の確認に集中できなくなりさらに時間がかかるようになります。玄関の鍵をかける段取りや回数などを間違いなく、そして邪魔される事なく完遂しなくてはいけないという難易度の高いミッションを毎朝クリアするのは本当に大変で、気付けば玄関の鍵を確認するだけで数十分かかっている状態に陥っていました。

最初の頃は儀式を邪魔されると「またやり直しをしなくてはいけないのか」と思うくらいだったのですが、何度も確認をやり直している中で阻害されるとこの上なく悔しくて、家の中に入ってから何度も舌打ちをしたり玄関に置いてあった靴べらを投げたりとかなり攻撃的になっていました。

もはや儀式を行う事がメインとなって戸締まりだけでは済まない状態となっていましたが、目の前の不安を解消していくだけで精一杯で、その当時は自分が強迫性障害という深刻なものになっていたとは全く気づく事ができませんでした。(つづく)
 



ますみゆたか
ますみゆたか 
セクシュアルマイノリティと精神疾患の自助グループ「にじのこころ」代表
見た目でわからない生きづらさを抱える人達の繋がる場を作る活動をしている。
最近の心のテーマは「しずかに、しぶとく、しなやかに。」
 
 



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