Road to the Paralympics Tokyo
[第7回]

花岡伸和氏

[一般社団法人日本パラ陸上競技連盟 副理事長]

 

第7回 パラリンピックへの道(4)

花岡伸和

楽しさ100%のパラリンピックを体験してみたい

この連載のタイトルは「Road to the Paralympics Tokyo」だが、ホンネを言うと私には2020年の東京パラリンピックに是非とも出場したいという思いはない。アスリートにはやはりピークというものがある。知識や経験は年齢を重ねるごとに向上していくけれど、反面、体力は次第に下降していく。その両方が交わる一点が、おそらくアスリートにとってのピークである。私はロンドン大会に、そのピークに近い状態のときに参加できた。あの場所に戻りたいという気は私にはない。あまり未練がましくはありたくない、そう思う。

私は今、手でペダルの代わりとなるクランクを漕ぐ自転車競技「ハンドサイクル」に挑戦している。車椅子マラソンから自転車競技に転向する例は世界的にも多く、その中からは3人ほどメダリストも生まれている。ただ、日本では自転車競技の選手層は陸上競技に比べてまだ厚いとはいえない。だから、正直思うところは、賛否あるであろうが「上手いこと選考に引っかからないかな」という程度のつもりで私は競技を続けている。もっとも、最近では自転車競技専門に本気で取り組む選手もだいぶ増えてきたので、実際は簡単にはいかない。

ただ、もし東京大会に出場することができたとしたら、私はそれを「楽しさ100%のパラリンピック」として体験したいと思っている。「スポーツは楽しく」というのが私の持論だ。もちろん、トップアスリートになるためには歯を食いしばって厳しい練習に耐える必要もあるわけだが、それも含めてスポーツというのは畢竟、いい意味での遊びなのだと思う。だから、楽しむことが一番。ただ私自身、過去に体験した2回のパラリンピックを心から楽しめたかというと、必ずしもそうではなかった。だから、もし東京大会に参加できたらお祭り気分で、心からパラリンピックを楽しんでみたいと思うのだ。

花岡伸和

 

障害者も健常者もなく、スポーツはひとつ

2020年に向けた最近の私の活動では、一アスリートとしてというよりも、選手やパラスポーツ界を側面から支援する活動の比重が大きくなっていきている。具体的には広報、情宣活動に携わらせていただく機会が多いのだ。広告代理店経由などで講演やイベントの仕事がいろいろ入ってくるのだが、今はえり好みせずにいただける仕事は積極的に引き受けた方がいいと思っている。今がPRのチャンスであることは間違いないし、2020年までにできることを積極的にやっていき、なんとか2021年以降につなげたいのである。

おそらく、東京都などは大きく2つのことを考えているのだと思う。一つは選手を発掘し育てる事業、そしてもう一つは観客を増やす事業である。そこで一つ思うのは、選手発掘のイベントなどをなぜもっと障害者にPRしないのかということである。今はどちらかというと健常者に広報して2020年の観客を増やしていこうという動きが目立つ気がする。それを障害者へのPR活動などを通じてうまく発掘に結びつけていくのがベストだと思う。

私自身が講演やイベント活動を通して目指しているのは、ざっくりいうと「スポーツをひとつにすること」である。スポーツに健常者スポーツ/障害者スポーツなどという区別はいらない。オリンピックとパラリンピックを同時に開催するなどとは違う、ひとつのスポーツという大きな枠組みの中に健常者と障害者いるという形にしていきたいのだ。2020東京大会がそれを実現する舞台になれば最高だと思っている。

 

花岡伸和

アテネパラリンピック(2004年)の車いすマラソンで6位、ロンドン(12年)で5位に入賞した車いす陸上の国内トップアスリートが花岡伸和氏。マラソンを引退後は後進の指導に力を入れる一方、手でペダルをこぐ自転車「ハンドサイクル」に転向し、同競技での東京パラリンピック(20年)出場を目指している。

 



 


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