史上初の寝たきりお笑い芸人・あそどっぐは
生粋のお笑い中毒だった

あそどっぐ

[お笑い芸人]

あそどっく

「ブスと障害者は3日で慣れる」──脊髄性筋委縮症という難病を患い、顔と左手親指しか動かせない「寝たきり」の障害者でありながら、お笑い芸人として精力的な活動を続けるあそどっぐ(37歳、熊本市在住)の座右の銘だ。障害者=庇護すべき弱者というステレオタイプ化した世間の眼を逆手に取り、独特のパロディアスで社会風刺に満ちた笑いの世界を構築し続ける彼。そのお笑いの原点に迫ってみた。

 

障害者ネタは諸刃の剣

あそどっぐがYouTubeに投稿したネタに「コント:もしも寝たきり障害者が銀行強盗だったら」がある。再生回数10万回を超える人気コンテンツだが、寝たきり障害者が銀行に押し入ったものの、他人の手助けを借りなければ脅迫ひとつできない「弱者っぷり」を曝け出すという秀逸なパロディで、視る者を不条理な黒い笑いに誘う。実はこのコント、実際にあった事件をネタにしたものだという。

「20年ぐらい前の事件なんですけど、脳性まひの方が実際に銀行に押し入ったものの、銀行員に『だめですよお』と軽くあしらわれ、なんのお咎めもなしに家に帰されたそうなんです。そのニュースを見たとき、『あ、これはこのままネタにできるな』、と。障害者って銀行強盗みたいな犯罪を犯しても子ども扱いされてしまう。どこまでも“庇ってあげなければならない”弱者なんです。そういう世間の眼には、ずっと違和感を抱いていました」

そう、あそどっぐの障害者ネタには、障害者=弱者という世間の決めつけを戯画化して投げ返すようなところがある。古くはツービートの系譜に連なる社会風刺。あそどっぐの障害者ネタを視るたび、筆者は実に知的な芸風だなと思う。

あそどっぐ──本名:阿曽太一。佐賀県みやき町出身の37歳。もともとダウンタウンなどのお笑いが好きだった彼が、お笑い芸人を志したのは高校生の頃。筋ジストロフィーを患う同級生とコンビを組み芸人デビューを夢見たが、その同級生が卒業後に他界したことで、一度は芸人への道を断念した。

そんな彼が再びお笑いの道を志すようになったのは、32歳のとき。「ニコニコ生放送」の存在を知ったのがきっかけだった。自由にネタを投稿できるその環境に可能性を感じた彼は、積極的に同放送へのお笑いネタの動画投稿をはじめた。

「高校生の頃は、障害者ネタをやっていなかったんです。障害なんかネタにしなくても話芸だけで笑わせてやるぜといきがってたんですね。でも、30歳を過ぎてお笑いを再開したとき、もうそんなことはいってられないと思った。なりふり構わず、自分の障害でもなんでもネタにして視て下さる方を笑わせなければならない。芸人の世界は、笑わせたモン勝ちですから」

障害をネタにすることは障害者にしかできない。確かに、これは大きな武器だ。あそどっぐはそれを「自分の中では、ハゲてる人がハゲネタを使うのに感覚的には近い」と言う。
「ただ、障害をネタにすることはある意味、諸刃の剣で、上手く当たれば大きな武器になりますが、すべると悲惨(笑)。だいたい、はじめて出るステージとかでは、自分が出てくるとお客さんがびっくりして会場がしーんと静まり返ってしまう。そこから『障害者ネタでも笑っていいのですよ』と自分の世界に引き込んでいけるかどうかは、はっきりいって腕次第です」

 

 

アメトーーークのひな壇に“寝たい”

そんなあそどっぐが世間の注目を集めるきっかけとなったのは2012年。NHK Eテレの「バリバラ~障害者情報バラエティー~」に初出演、日本一おもしろい障害者パフォーマーを決める「SHOW-1グランプリ」の第3回大会で準優勝を果たしたことだった。その頃からじわりじわりと人気を高め、現在では九州・福岡で月一回開催される地元お笑い芸人たちのライブに参戦すると「あそどっぐを視に来た」という客が多数集まる。ツイッターのフォロワーも8000人を超え、「ブレイク間近」という声も聞こえる。

だが、人気者になればなるほど、その芸風にはやはり賛否の両論が寄せられるようになる。否定的な声について、あそどっぐはどう思っているのだろう。

「否定的な意見は大歓迎です。批判する人でも自分のネタを視てくれているわけですよ。芸人はやっぱりいじってもらってナンボです。批判をこちらが面白く返せれば、それも逆にいじりという形で話題に転化できる。だから批判はどんどんしていただきたい。逆に嬉しい感じです」

強い人なのである。そして、実にチャーミングでもある。「フェイスブックなどを拝見していると、最近、女性ファンが増えているようですね」と水を向けてみると「そうなんですよ。それがいちばん嬉しいですね」と嬉しそうに笑う。「でも、今のところおばちゃん層が主流で、もっと、こう、女子大生とかにウケるようになりたいです」。そう、女の子にモテたいとか、お金が欲しいとか、有名になりたいとか、お笑いをやる上でのモチベーションはいろいろあるだろう。では、あそどっぐにとってお笑い芸人たることの究極の動機、目的とはなんだろう。

「お金が欲しいとかはあまりないです。純粋にお笑いが好き。自分の作ったネタで誰かが笑った瞬間って、本当にやったことがないとわからないほど気持ちのいいものなんです。ですから、芸人としてネタを作って誰かを笑わせるのがいちばん。それを一日でも長く続けるために、有名になってプロとして生活できる収入を得たい──そんな感じですね」
つまり、あそどっぐはお笑い中毒なのだ。生粋の、生まれついてのお笑い芸人なのである。そのレベルで言うと、彼が障害者であるかないかはあまり関係のないことなのかもしれない。

最近は、障害ネタ以外のネタを演じる機会も増え、今後は「半々ぐらいの割合でやっていきたい」というあそどっぐ。最後に、今後の具体的な目標について訊いてみた。
「今のところ、テレビはNHKにしか出ていませんけれど、今後は民放各局のお笑い番組などにも出演したい。たとえばアメトーーークのひな壇に座りたい、いや“寝たい”です」
お笑い番組のひな壇にあそどっぐが寝そべり、それを宮迫博之や明石屋さんまがいじる──想像しただけでも笑える光景である。その日が一日も早く訪れることを、筆者は願ってやまない。

(文中敬称略)

 


 

 


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