Road to the Paralympics Tokyo
[第13回]

花岡伸和氏

[一般社団法人日本パラ陸上競技連盟 副理事長]

 

第13回 競技環境を整備する上での課題

花岡伸和氏

競技結果の向こうにあるもの

前回のコラムにも書いたが、パラ・スポーツの存在意義とは、第一義的には障害者が心身の自立を実現することにある。そして、ここが重要なのだが、障害者が心身の自立を果たせば社会の負担が必ず減る。なぜなら、保護やチャリティではなく、自分の力で生きていく障害者が増えるからだ。それこそが、障害者がスポーツに親しむことの最大の意義。保護やチャリティではなく、自分の力で生きていく──パラ・スポーツに親しむこととは、そのための最良の“手段”の一つなのである。

しかし、このままいくとパラ・スポーツが“手段”ではなく、“目的”になってしまう恐れがある。私が若い選手によく言うのは、競技結果の向こうにあるものを見てほしいということ。スポーツは手段であり、勝利というのは目標である。その先に別の目的があるはずだ──若い選手にはそういう考え方を持ってもらいたいのだ。

そうすると、今、盛んに言われているデュアルキャリアという考え方もしっくりくると思う。デュアルキャリアとは、カンタンに言うとスポーツと学業なり仕事なりを平行してやっていくということであるが、競技自体が目的になってしまっている選手というのは「他のこともやらなきゃいけないよ」と言われてもたぶん、理解できないと思う。自分自身の人生の全体像の中に、競技人生を適切に位置づけることができないからだ。

私たちの時代というのは、幸い──なのだろう──競技を続けるためには働かなければならなかった。しかし、今は2020年のおかげでアスリート雇用の選手がどんどん増えている。彼らは仕事をせずとも一日中、練習に明け暮れることができるという恵まれた環境にある。

ただし、仕事をせずに競技漬けの生活をしていては人間形成もできないし、なによりも選手生命というのはいつかは必ず終わる。そのとき、彼らにどんなセカンドキャリアが待っているというのか。スポーツと平行して何かをやっておかなければセカンドキャリアなどないんだよ──そういう考えを若い選手にはもってもらいたい。そのためにも、2020年は競技結果だけを求めるパラリンピックにはなってほしくないのだ。

一般社団法人「日本パラ陸上連盟」での仕事

私は「日本パラ陸上連盟」という競技団体の副理事長を務めている。その中で歯がゆく思うのは、元選手がなかなか競技団体に入ってこないこと。海外に目を向けると、ナショナルのパラリンピック委員会がそれぞれNPC(国内パラリンピック委員会)として各国にあるのだが、その会長が元選手という例も少なくない。

ところが日本の場合、JPC(日本パラリンピック委員会)などのスタッフも当事者ではなく外から入ってきた健常者の方が多いというのが問題だと思う。さきほどの「スポーツを自立の手段として使う」ということに繋げて言えば、自分たちのことは自分たちでやらなければならないはずだ。それをせずして、「スポーツを通して自立しました」というのはちょっと違うのではないか。したがって、元選手として競技団体に身を置くというのは一つのステップとして極めて重要なことだと思う。

さて、では私が副理事長としてどういう仕事をしているかであるが、おそらく色んなことの調整役としての役割が大きいと思う。組織内、あるいは外部のさまざまな組織とのパイプ役を務めることが主たる役割となっている。

とくに、個人的に進めたいと思っているのはオリンピアンとのコネクションづくりだ。オリンピアンにもパラリンピックの価値を知ってもらわなければならないし、逆に私たちもオリンピアンから学ぶことは沢山ある。まずは選手同士の交流が大切だ。その交流が、これからの選手たちに良い形で波及していけばと願っている。

花岡伸和氏
花岡伸和氏

 

花岡伸和氏

アテネパラリンピック(2004年)の車いすマラソンで6位、ロンドン(12年)で5位に入賞した車いす陸上の国内トップアスリートが花岡伸和氏。マラソンを引退後は後進の指導に力を入れる一方、手でペダルをこぐ自転車「ハンドサイクル」に転向し、同競技での東京パラリンピック(20年)出場を目指している。

 



 


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