森川弁護士、受給の現場に切り込む
[第7回]

第7回 社会保障制度改革推進法の問題点について

森川清氏

[首都圏生活保護支援法律家ネットワーク事務局長 弁護士]

怒り?

生活保護制度を取り巻く問題点を専門家の立場から徹底解説。

 

自助の強調と国家の役割の後退

 
 福祉の資源供給主体は何(誰)か──このことに関しては、一般に自助・共助・公助という言葉が使われる。自助とは個人や家庭などのインフォーマル部門、共助とは地域社会による相互扶助などのボランタリー部門、そして公助とは国すなわち公的部門が主体となって福祉の資源を供給していくことを表す。

 では、日本の場合は自助・共助・公助のうち、何が先頭に来るのか。端的に言えば公助である。憲法25条2項に「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」とあるように、福祉の資源供給の責任を最も主体的に負うのが国であることは明確である。また、生活保護法も1条で「国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」と謳っている。つまり、憲法・法律において、福祉とは国が第一に担うものだということが明確に規定されているのである。

 しかるに、これを逆転させ、自助を先頭に持ってきて公助を後退させていこうとするような危惧すべき動きが近年、この国で生じてきている。たとえば、2012年8月に施行された社会保障制度改革推進法である。同法の問題点について、私は拙著「改正生活保護法~新版・権利としての生活保護法」の中で、こう書いた。

 (社会保障制度改革推進法)2条の社会保障制度改革の基本的な考え方は、国による生存権保障を「家族相互及び国民相互の助け合いの仕組み」を通じた個人の自立の支援に矮小化するものであって、憲法25条に抵触するものといえる。

 つまり、仮に生活に困窮したとしてもまず自助や共助でなんとかしなさい、国が助けるのはいちばん最後ですよ、というのが社会保障制度改革の眼目なわけである。自助の強調と国家の役割の後退──いわゆる新自由主義に典型的な思考法といえよう。

 

「財源」を理由に進む弱者切り捨て

 

 では、なぜこうした動きが生じて来るのか。英米が先陣を切った新自由主義的改革の後追いという側面もあるだろうが、最も大きく喧伝されているのは「財源」問題である。つまり、国にはもう社会保障に振り向けるお金がないから、自分たちの事は自分たちで何とかしなさい、というわけだ。

 しかし、国の財源というのは、本当に不足しているのだろうか。問題は、本来、税金を取るべきところからしっかり取らないことにあるのではないかということである。グローバル企業などには、日本で巨大な営業利益を上げながら、タックスヘイブンなどを利用して租税回避しているガリバーがいくつもある。これに関しては、最近になってようやく監視体制を強化する動きが出てきたが、グローバル企業の租税回避スキームは非常に巧妙にできており、実態解明、国際協力には相当の時間がかかる。また、外資企業誘致の問題ともからむので、国がどこまで本気かはわからない。

 いずれにせよ、国は法人税率引き下げを明確に打ち出しているわけだし、得をするのは大企業ばかりの状況は当面、続いてしまうのだろう。そして、「財源」問題を金科玉条として社会保障に対する国の責任が放棄されていくわけだ。割を食うのは、社会的弱者である。自助という美名の下で進む弱者切り捨て──そんな悪夢がこの国で現実のものになろうとしている。私たちは、この流れを何としても止めなければならない。

 
>>第1回 生存権とは何か
>>第2回 ミーンズテストという通過儀礼
>>第3回 いまに生きる「劣等処遇原則」
>>第4回 吹き荒れる生活保護バッシングについて
>>第5回 ナショナルミニマムとしての生活保護基準
>>第6回 福祉事務所による違法行為はなぜ生じるのか
 


 
森川清
森川清(もりかわ・きよし):葛飾区福祉事務所でケースワーカーとして勤務の後、弁護士へ。日弁連貧困問題対策本部運営委員、東京災害支援ネット代表等も務める。著書に「改正生活保護法 新版・権利としての生活保護法」(あけび書房刊)などがある。

首都圏生活保護支援法律家ネットワーク


 


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