Road to the Paralympics Tokyo
[第12回]

花岡伸和氏

[一般社団法人日本パラ陸上競技連盟 副理事長]

 

第12回 障害者スポーツは今後、どうあるべきか

西勇輝選手

写真は花岡選手の教え子の西勇輝選手。パラ・スポーツを通じて心身の自立を果たし、社会人としても活躍する。野村不動産パートナーズ所属。

「2020年に向けて」の孕む危険性

前回のコラムにも書いたが、今、日本のパラ・スポーツ界はかつてないほどヒートアップしている。いうまでもなく、2020年のオリンピック/パラリンピックに向けての盛り上がりだ。しかし、私はこの動きはかなりの危険性を孕んでいると考えている。たとえていうのならば、家の土台が少々、朽ちている状態なのに、補強材で3年間もたせようとしているように見えるのだ。

それは、どういうことか。日本のパラ・スポーツにもそれなりに歴史はあるが、基礎からきちんと積み上げてきたかというと、決してそうではない。たとえば、今、私が手がけているコーチングの部分でも、技術的な積み上げや指導法の積み上げがないため、一からはじめているようなところがある。そうした状況で2020年までにメダルを取れるような強い選手をつくろうというのは、はっきりいって無理である。その不可能なことを、日本のパラ・スポーツ界は“別のカタチ”でやろうとしているように見えるのだ。

たとえばタレント発掘でも、手っ取り早く結果が出せそうな選手を連れてくる。あるいは、手っ取り早く結果が出せそうな種目に強い選手を当てていく。そうした付け焼き刃的な動きが目立つのである。それをやってしまうと、今まで私たちが苦心してやってきたことがすべてないがしろにされてしまう。日本の場合、障害者スポーツセンターというものがほぼ各都道府県にあるのだが、その機能をどう生かすのかとか、そこを起点にスポーツをはじめた者が参加する全国障害者スポーツ大会の扱いをどうするのかとか、地道で基礎的な事業を本来はしっかりと推進すべきなのに、そうしたことがすべて後手後手に回ってしまっている。この状況に危機感を覚えているパラ・スポーツ関係者は、決して少なくない。

確かに、パラのメダリストを頂点とするトップ・スポーツというのは一見、華やかだ。しかし、それが付け焼き刃的なものでしかないとしたら、トップ・スポーツの価値というものが本当にあるのかどうか疑問だ。やはり、本来、トップ・スポーツに価値があるのは歴史があり、基礎の積み上げがあり、文化として成り立っているというのが条件だと私は思う。競技結果だけがトップ・スポーツの条件とされてしまうような状況は、かなり歪なものだと思うのだが、どうだろう。

オリンピックは2つ要らない

ここで、障害者スポーツの存在意義というものを少し考えてみたい。なぜ、障害者がスポーツをするのか。あるいはするべきなのか。それは、障害者がスポーツをすることによって残存機能の向上を図り、行動範囲を広げて、自立を目指すというのが本来の目的なのだ。自立を目指すために心身を鍛える──その部分、というか理念が2020年という“目標”のためになおざりにされているところは確かにあると思う。

スポーツの価値というのは健常者のスポーツも障害者のそれも等しい部分というのはあると思うが、パラ・スポーツの場合、あくまでも主眼は心身の自立なのだ。したがって、パラ・スポーツがオリンピック・スポーツを目指す必要はないというのが私の考えである。パラリンピックはパラリンピックとして唯一無二のものであるという方向性をしっかり守るには、健常者のスポーツとの違いというものをもっと全面に押し出しても良いと思う。競技結果の方はオリンピックに任せて、パラリンピックはもっと別のレーゾンデートルを見いだしていかなければならないのではないか。それを前提にして、その後に競技結果がついてくるというのが正しい順番だと私は考える。

ただ、その辺りは色んな考え方があって難しいところでもある。たとえばお金を動かそうと思うとどうしても競技結果が必要だったりするし、スター選手がいてそこに企業がついてお金が出て──そうした構造はオリンピックもパラリンピックも同じだったりする。ただし、そこだけに走ってしまうとオリンピックがもう一つできるだけである。オリンピックは2つは要らない──これは譲ることのできない私の持論である。

 

花岡伸和氏

 

花岡伸和

アテネパラリンピック(2004年)の車いすマラソンで6位、ロンドン(12年)で5位に入賞した車いす陸上の国内トップアスリートが花岡伸和氏。マラソンを引退後は後進の指導に力を入れる一方、手でペダルをこぐ自転車「ハンドサイクル」に転向し、同競技での東京パラリンピック(20年)出場を目指している。

 



 


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