スタジオには知的・身体・精神の三障害を抱える障害者が100名。彼らに相対するのは千原ジュニアやカンニング竹山らお笑い芸人を中心とする10名近くのタレントたち。この両者が意見を戦わせるとき、果たしてどんな化学反応が生まれるのか──そんな極めて実験的な試みが6日、東京・渋谷のNHKで行われた。12月21日に総合テレビで放送(後10:30~11:15)される「ココがズレてる健常者 障害者100人がモノ申す」の収録である。ふだん「腫れ物」扱いされている障害者たちにタレントたちが勇気を持って触れてみたとき、果たしてなにが起こったか。緊迫の撮影現場をルポする。
知らないことが何より怖いこと
きっかけは、当日司会を務めた放送作家・鈴木おさむの“思いつき”だった。Eテレで放送中の障害者情報バラエティー「バリバラ」内で鈴木がプレゼンした「障害者100人VSお笑い芸人」という企画。それがそのまま実現してしまったのだ。「オファーがあったとき、“えっ? ホントにやるの?”と驚いた」と鈴木はいう。そう、そんな前代未聞の企画を実現してしまう破天荒なエネルギーがバリバラという番組の魅力である。
まず当日の収録の模様を印象記風に記すと、100人の障害者側は見るからにやる気満々な様子。それに対してタレント側はどこかおっかなびっくりといった風情。寝たきりお笑い芸人“あそどっぐ”の側にいた平成ノブシコブシの二人が早速、カンニング竹山から「なぜ、あそどっぐと目を合わせようとしない!?」といじられる。だが、芸人同士の“いじり合い”は見慣れた光景だ。果たしてプロの芸人たちは、障害者という「腫れ物」を“いじる”ことができるか──筆者はここが番組の肝になると感じ、期待を込めて収録を見守った。
当日のプログラムは大きく3つのブロックに分けられていた。
1.健常者のここがズレている──障害者側からの問題提起。
2.カミングアウト「私、障害を利用しちゃいました」──障害をあざとく利用する障害者のエピソード。
3.健常者と障害者のズレをなくすために──障害者の側からの要望編。
スタジオには障害者番組につきものの“暗さ”はみじんもなく、いかにもバリバラの特番らしい突き抜けた明るさが満ちている。そんな中、元気だったのはやはり障害者の側だった。
電車内で点字でポルノを読んでいたところ、「よくお勉強されていますね」と健常者に声をかけられたというブラインドの方のエピソードや、障害を“エサ”にイケメンを引っかける下肢不自由の女性のエピソードなど、矢継ぎ早に放たれる自虐ネタが笑いを誘う。
一方、芸人サイドはどうだったかというと、今ひとつ障害者たちをいじり切れなかったというのが筆者の率直な可能性だ。なぜ、そうなってしまうのか。障害者たちのことを知らないからである。知らないからツッコめない、知らないからいじり倒せない──さらに少し、敷衍していえば、知らないからこそ差別をしてしまうのである。障害者問題を考える上では、「知らないことこそが最も怖いこと」であることを、私たちは肝に銘じるべきだろう。そういう意味では、千原ジュニアの次のような発言は非常に貴重である。
「腫れ物に触れ、ということですね。そこからはじまることがいっぱいあるのかな。知らないことだらけだった」
ただ、いくつかの改善の余地を残しながらも、鈴木がいうように「このような番組を年末に、総合テレビで放送することはすばらしい」試みであることは確か。鈴木の言葉を受けてもう一人の司会者・NHKの有働由美子アナウンサーも、「入局から25年経って、いろいろ経験したんですけど、これほどあたふたしたことはないな」と前置きしながらも、「NHKに勤めていてよかったわぁ」と感慨深げに語った。偽らざる心境だろう。
だが、出演者の一人でバリバラでレギュラーを務める玉木幸則氏が言うように「これ一回で終わらせず、継続していくことが大切」なのも確か。筆者としても第二・第三弾に期待したいところである。