心病む人たちと地域住民の“共存”の場「クッキングハウス」
その創設30周年を記念する舞台の稽古を見学してみた

松浦幸子氏

[特定非営利活動法人クッッキングハウス会代表/精神保健福祉士]

 

東京・調布市にある「クッキングハウス」は、心病む人たちに「建前は捨てて本音で生きていって大丈夫だよ」と安心感をプレゼントしてくれる「不思議なレストラン」だ。まだ「社会的入院」などという言葉すらなかった1987年、もしかしたら終生、精神病院で生きるしかなかったかもしれない人々が地域で暮らす上での「居場所」として12畳のワンルームマンションで料理教室(共同作業所)としてオープン。今では自然派レストランを2店舗構える労働と交流の場となった。そのクッキングハウスのメンバーが本年12月、調布市たづくり会館「くすのきホール」で「心の居場所 いのちの輝き」と題されたソシオドラマを上演する。5月某日、ドラマの合同練習会に参加してみた。
クッキングハウス
 

プロセスが大事

 
みつけたよ クッキングハウス
病気のことは かくさなくても
いいのだよ
世間の冷たさに おびえなくても
いいのだよ
 
まるで母の ふところのような
私の居場所があった
 
もう逃げない私を よろしくね
みんなと一緒に 生きていくのです
(タイトル:「私の心の居場所」)
 
 
劇中で合唱されるこんな歌詞に、心を病むメンバーたちが次々とメロディーをつけていく。それらはプロの作曲家による若干の修正を施されるものの、選考を経て舞台本番で歌われるメロディーの原曲となる。そして、原曲を創ったメンバーは、その歌の作曲者としてクレジットされる。
 
主に朗読と合唱で構成されるソシオドラマは松浦氏の脚本によるものだが、その大元になったのはメンバーから寄せられた70数編の詩。それを元に松浦氏がイメージを膨らませ、クッキングハウスのこれまでの歴史を鳥瞰するような一編の劇が創作されたのだ。松浦氏は言う。
 
「私たちの舞台の特徴は、メンバーみんなで創作するものであること。出演者ももちろんメンバーですし、プロの方の手をお借りしている部分もありますが、基本は心の病を抱えた人たちの魂の訴えをそのまま劇にしたものなのです」
 
「みんなで創作する」という言葉の通り、一人がメロディーを発表すると他のメンバーが口々に感想を述べ、それがメロディーをブラッシュアップしていく上での大きなヒントになる。この日、練習に参加したメンバーたちの表情は、どれも生き生きとした輝きに満ち、心を病む者特有の“暗さ”は微塵も感じさせない。デイケア的な交流の場を想定していた私は、少なからず驚かされずにはいられなかった。
 
「舞台そのものも大事ですが、本当に大切なのは一つの舞台を作り上げていくプロセスなのです。メンバーにはプロセスの中で“モノ作り”の楽しさや喜びを感じ取ってもらいたいと思っています」
 

松浦幸子氏
 

基本理念は4つ

 
クッキングハウスの30年に及ぶ歴史を振り返る紙幅はここにはないし、それはすでに多くのメディアで取り上げられてもいる。詳しく知りたい向きは松浦氏の著書「不思議なレストラン クッキングハウス物語」(教育史料出版会)などに当たられると良いだろう。
 
ただ、大きなスポンサーなどを背景に持たず、心を病む者たちにきちんと報酬を支払いつつ働いてもらい、自然派レストランとティールームとクッキングスターの3つの場の経営を軌道に乗せたその方法論の斬新さは、やはり刮目に値する。最近の福祉の現場ではピアサポートが一種の流行になっているが、クッキングハウスの存在意義は、まさにそのピアサポートを先駆け的に実践してきたことにあるのかもしれない。
 
そのクッキングハウスが掲げる理念は4つある。松浦氏の著書から引用して一文の終わりとしたい。
 
「私たちが不器用ながら心をこめてやってきたことで、どんな活動場面でも、何かを決めるときでも判断基準にしてきたことは、
 
①安心して、自分らしさを取り戻せる居場所か、
②いつも開かれた市民交流の場か、
③弱い人の立場に沿った新しい福祉文化を創造する場か、
④メンバー一人ひとりが必ず誰かの役に立っていることを確信できる活動か、
 
の4点だった。10年かけてこの4つを実現するために体ごとぶつけて活動してきたのだと思う。だから、これを「クッキングハウスの理念」とよんでもいい。」
 


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