ユミズタキスの非定型忍法帖[第1回]

本意ではないこと、改めたく

ユミズタキス氏

[ASD & ADHD Magazine TENTONTO編集長・発行人]

ユミズタキスの非定型忍法帖

イラスト:筆者

 

「TENTONTO」という魅力的なフリーペーパー&webマガジンがあります。発達障害のある人(=TENTONTOさん)をはじめとする若者たちが参集して製作している知性とセンスに溢れる媒体です。媒体の編集長・発行人を務めるユミズタキス氏もTENTONTOさんの一人。本連載は、ユミズ氏が「非定型」な存在である発達障害当事者としてのご自身を定型社会に忍び込んだ“忍者”になぞらえ、その視点から世の中の法則を捉えんとするコンセプチュアルなコラムです。

 

〜定めの型に非ず、世を忍びて世の法則を解する。これ即ち非定型忍法なり〜

 

まずは、自己紹介にて候

お初にお目にかかります。さすらいの忍び、ユミズタキスと申します。拙者は小さなボランティア団体TENTONTO(テントント)で、同志と共にフリーペーパー『ASD & ADHD Magazine TENTONTO』の発行、Webマガジン『TENTONTO web』の運営をしております。ASD(自閉症スペクトラム障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)という言葉を冠する通り、これらの障害傾向の総称、発達障害についての情報を草の根で発信しております。この度お声掛けいただき、連載を受け持たせていただくことに相成りましたので、どうぞよろしくお願いいたします。

初回ということもあり、筆を執っている人間の活動のあらましをお伝えした方がよかろうと思案いたしましたので、もう少しTENTONTOについて説明をさせてください。『ASD & ADHD Magazine TENTONTO』は、ざっくりいうとナード(注1)でリベラルなフリーペーパーです。紙面上では発達障害に関するマジメな内容もそこそこに、オタクっぽく好き勝手にやっております。このような体裁になっておりますのは、感覚という行動の基盤になる根本のものが多くの人とずれがある発達障害当事者について、不特定多数の読者の方に知ってもらいたいという動機があり、あの手この手でこの難解な事実を伝える方法を模索した結果です。

3年前から始めたこの活動ですが、フリーペーパー専門店『ONLY FREE PAPER』様からめざましテレビ内にてご紹介いただいたことを皮切りに、同じく専門店の『只本屋』様から取材を受けWebメディアゆるぢえさんにて取り上げていただいたり、ありがたいことに多くの方の目に触れる機会をいただいてまいりました。中野ブロードウェイの『タコシェ』様といった書店、渋谷の『アップリンク』様といった映画館、広島のアウトサイダー・アート専門ギャラリー『クシノテラス』様といったアートギャラリー・美術館、他全国の多数の店舗様に配布のご協力をいただいております。

さて、発行しておりますフリーペーパーの具体的内容は、Webマガジン『TENTONTO web』にもすべて公開しておりますので、そちらをご覧いただければありがたき幸せに存じます。さわりだけお伝えしますと、海外のソーシャルサービスで展開される感覚過敏の苦痛を和らげるグッズや施設の紹介、感覚の違いに着目したボランティア活動を行う当事者の紹介といったマジメな内容。ASD傾向のある主人公が登場する映画の紹介、発達障害当事者の丸一日の行動を密着レポートといったカルチャー誌的内容。はたまた拙者自作の触覚過敏通学ストレス体験ゲームの特集、女児向け着せ替えゲームに癒される当事者エッセーといった、ディープな内容も扱っております。その他、Webマガジンでも濃い記事をどしどしアップしてまいりました。ピンとこられた方、是非にご一読をば。

と、一度語り始めると歯止めが利かない性分で、面目次第もありませぬ。残りの尺で、この連載について展望を語らせていただければと思います。

 

本意ではないこと、改めたく

 

『非定型忍法帖』。このような情緒あふれる連載タイトルを付けさせていただきましたが、ちょっと変わった忍術の話をしたいわけではございません。この連載では、『非定型』な存在の発達障害当事者が、傷つき過ぎないように『忍』び、自分たちなりに世の中の『法』則を捉えようとしている様を文章にしようという目論見でして、忍法帖という語にその意を込めました。

この連載のタイトルにも入っております、『非定型』という言葉。これは発達障害の当事者が、自分たちのあずかり知らぬ感覚でもって判断や行動、コミュニケーションを取る発達障害非当事者のことを『定型発達』と呼び、自分たちを『非定型』な存在と認識している文化があることから取っております。また発達障害の場合は、感覚の過敏、鈍麻といった知覚の違いを伴っている当事者も多くおり、そのために多くの人の理解の得られない苦痛や困難を抱えていることがあるのです。『非定型』は洋の東西を問わず発達障害当事者界隈でみられる捉え方で、物心ついたときから周囲と同じ行動が取れない少数派の自分たちの存在を、よりはっきりさせるために用いている語だと拙者は思っております。

発達障害に関する情報を追いかけ発信してきた身として、障害特性による困難が本人、そして周囲の人々に、存外重くのしかかっている現状があるのではないかと常々感じておりました。ただ、拙者も発達障害の当事者でもありますが、当事者を代表して拙者自身の例をもって一概に語れるほど、その困難は一様ではございません。この障害のあらわれは個人差が大きいものであり、そのことも発達障害について理解を難しくしております。

ただ、ひとつ当事者に共通して言えることがございます。それは、多くの人と『自然にそう感じる』といった部分からしてずれがあり、そのことに起因した苦痛や、理解が難しいことによる支援のあり方の不自然さが生じやすいということです。当事者自身が他者に迷惑をかけてしまった申し訳なさから延々悩んだり、支援者が救いたい一心でやったことが裏目に出たりしてしまうこと。他者を思いやる気持ちは尊いですが、その努力は本意ではないでしょう。

この連載では、発達障害の当事者、また当事者を支援したいと願っている立場として、そうした『感覚のずれ』に起因する事柄について取り上げるつもりです。そして、当事者にも非当事者にも理解できうる言葉で、実際はこういうようなことになっているんじゃないか、という拙者の意見を述べさせていただけたら、と考えております。

ここまでお読みくださり、恐悦至極。では次回まで、さらば!
 


注1:英語圏で使われる俗語で、コンピューターには詳しいが社交性に乏しい人を指す。主にマニアが自称する際に用いられる(ASCII.jpデジタル用語辞典より)。


 
ユミズタキス
ユミズタキス ASD & ADHD Magazine TENTONTO編集長・発行人。発達障害当事者で、日本において各人の感覚の違いからデザインする〈センサリーデザイン〉による発達障害者支援の推進を考える。座右の銘は、ペンは棒手裏剣よりも強し。左利き。
 



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