うつ病でLGBTな僕の生活と意見[第7回]

強迫性障害を患っていた頃③

ますみゆたか氏

[にじのこころ代表]

コードとコンセント

精神疾患を患い、かつLGBT(ゲイ)である──この社会では二重の意味でマイノリティでありながら、同胞たちのために自助グループ「にじのこころ」を事実上、一人で運営するという孤軍奮闘ぶりをみせる、ますみゆたか氏。LGBTコミュニティでさえ「メンヘラお断り」という理由でなかなか受け入れられないという彼が、日々の雑感を連載で綴ります。

 

確認したくなる項目が増えていくばかり

朝が来るたびに玄関の鍵を何度も確認しなければいけない事がとても苦痛で、私は不眠や食欲不振、倦怠感に襲われるようになりました。

精神的にさらに不安定になった私は確認行為がよりひどくなってしまい、コンロの火が消えているか、ガスの元栓がしっかりと閉まっているか、台所やお風呂、トイレなどの水回りで水がきちんと止まっているかといった所までしつこく確認するようになりました。

ガスコンロではスイッチがしっかりと「止」の位置になっているか、火が出ていないか何度も見て確認し、水回りでは絶対に水が出ないという手ごたえを感じるために蛇口を力強く締めて、その後に水が出る部分を自分が納得できるまで凝視しました。

しかし強く締め過ぎたために蛇口部分が壊れて水が噴き出さないか別の不安が出るなど、ひとつの不安を解消するための行為がさらに別に不安を生み出し、確認したくなる項目が増えていくばかりでした。

そしてニュースでトラッキング現象(長い間プラグを挿したままにしておくと埃が溜まりそれが原因で発火する現象)という言葉を知ってから、電化製品によって火事が起きてしまうのではないかという新たな不安が生まれ、それ以降は毎日出かける前に電化製品のプラグを抜くようになりました。

最初は出かける前にプラグを抜いてそのまま置いていたのですが、抜いたばかりのプラグを床に置くとそこから火事になるのではないかという変な想像が頭を支配してしまい、いつの間にかコードをS字フックなどで吊るし、プラグ部分を空中に浮かせる状態にしてどこにも触れないようにしました。

根拠のない不安を振り払うために自分が納得できる方法をいろいろと編み出していくのですが、そうするとS字フックに吊るすなど余計な作業が増え続けてさらに自分を苦しめていきます。

火事が起きないように毎日プラグに埃が溜まっていないかチェックをして掃除を始めたのですが、するとまた新たな不安が生まれます。掃除をした際に何かプラグ部分に異物がついてしまい、それに気付かずコンセントに挿して火事が起きてしまうのではないかという突拍子もない事をある瞬間に考えてしまい、それからはもうプラグを挿す事さえも怖くなってしまいました。

そのため冷蔵庫を使う事ができなくなり食材を保存できなくなりました。また火事が怖くてガスコンロを使って調理をする事もできなくなり、その頃には食べる物はその都度仕事の帰りに買うようになりました。

 

不安に支配される毎日

不安はさらに頭の中に広がり続けます。家を出てからもカバンの中に忘れ物がないかを何度も確認するようになりました。持ち物が全部そろっている事を確認するのは勿論ですが、カバンの中の物を確認する順番もいつの間にか決まっていて、まず財布、次に携帯電話、その次に定期入れというように、決まった順番で確認しないと気が済まないのです。

そして数分前に確認のためにカバンを開けた際に、誤って何か持ち物を道に落としてしまったのではないかと思いまた確認をしたりと、自分が今何を確認したいのか、先程は何のために確認をしたのか、それさえもわからなくなりました。

仕事の時も何か資料に見落としがないか何度も確認するようになったり、封筒で送る際に封をした後に中身を間違いなく入れたのか心配になってまた開けてしまうなど、仕事にまで過度の確認による影響が出てきて、この間までいったい自分が毎日どのような生活をしていたのか、思い出せないくらいに不安に支配されていました。(つづく)
 



ますみゆたか
ますみゆたか 
セクシュアルマイノリティと精神疾患の自助グループ「にじのこころ」代表
見た目でわからない生きづらさを抱える人達の繋がる場を作る活動をしている。
最近の心のテーマは「しずかに、しぶとく、しなやかに。」
 
 



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